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【論文】神田孝治(2013) 「文化/空間論的転回と観光学」

 

神田孝治(2013) 「文化/空間論的転回と観光学」『観光学評論』1(2): 145-157
 
アブスト
人文・社会科学における観光研究は、学際的な文化/空間論的転回の影響を受けるなかで、1990年代に入ってから盛んになった。そこで本稿では、文化/空間論的転回と呼ばれる研究動向における視点を整理した上で、かかる議論に触発された観 光研究の特徴を明らかにした。さらに、文化/空間論は1990年代後半以降にその視点が変化しており、それに影響を受けた観光研究の視座も変容しているため、この点についての考察も行った。最後に、本稿で取り上げた議論をもとにして、観光学の 意義と可能性について、「移動」、「出会い」、そして「あわい」という3つの点から検討した。
 
目次
I. はじめに 
II. 文化/空間論的転回とその視点 
III. 文化/空間論的転回と観光研究
IV. 文化/空間論の変容と観光研究 
V. おわりに―観光学の意義と可能性
 
感想
社会学における90年代以降の諸転回と観光研究のかかわりについてレビューする論文。結論は、観光と観光学はともに領域横断的な移動のなかに成立するものであり、それゆれに文化論的・空間論的転回後の人文社会学研究において重要な位置を占めるというもの。本稿の趣旨とは反対になるかもしれないけれども、観光研究を社会学や地理学の流れに位置付ける上で参考になった。
 
 
レジュメ(ざっと)
1. はじめに
1-1 背景:アーリと観光のまなざし。
1-2 だけではなく、80年代後半以降の「文化論的転回」や「空間論的転回」。90年代後半からの物質性、情動、行為、実践、出来事といったキーワード
1-3 本稿の目的: 90年代以降の議論と観光研究の関係を整理し、人文社会学における観光研究の視座を理解
 
2. 文化/空間論的転回とその視点
2-1. 文化概念の整理: ウィリアムズによる3つの意味
 ①「知的・精神的・美学的発達の全体的な過程」
 ②「ある国民、ある時 代、ある集団、あるいは人間全体の、特定の生活様式」 (19c後半~)
 ③「知的、とくに芸術的な活動の実践やそこで産み出される作品」(19c末~20c初頭)
 
2-2. 人文社会科学では②の意味。ヘルダーに由来。クローバーによる文化の超有機体説など
2-3. ↑文化の実在化に対する批判
2-4. オルタナティブとしての人文主義地理学('70s): 人間主観にとっての場所の意味。実証主義地理学への批判
2-5. 文化論的転回('80後半): 文化を検討対象。記号論→言語論的転回の延長線上。単なる言語的構築ではなく、
2-6. その政治性。
2-7. フーコーとサイード。心象地理に織り込まれた権力関係
2-8. 文化と経済の関係: ハーヴェイの「時空間の圧縮」。空間的障壁が減り、それゆえ場所の差異化が重要に
2-9. 移動現象: ハイブリッドで流動的な文化
2-10. 文化論的転回は空間論的転回: 空間は社会的構築物(ハーヴェイやソジャ)
2-11. ルフェーブル: 資本主義的社会空間は均質性と差異の両方を志向する矛盾した空間。
3つの区間の次元
「空間的実践」;知覚された空間。高速道路や家屋の配置など物質的な空間の次元
「空間の表象」;施行された空間。都市計画や地図作成
「表象の空間」;生きられる空間。芸術家の表現する空間でありユーザーが生きる空間
この三つがずれたり拮抗しながら社会空間が生産
 
3. 文化/空間論的転回と観光研究
3-1. 文化/空間論的転回の観光研究への大きな影響。90年ごろまでは記述的研究、90年代からは理論的研究
3-2. 政治、経済、移動への着目
・ダンカンとグレゴリー: 心象地理の議論を援用しつつ、帝国主義時代の紀行文を分析
ブリトン:消費文化のりゅせいと観光の関係、差異化を通じた場所の商品化
・アーリ:長距離旅行の社会的組織化の意義
3-3. 以上のように観光が重要な検討対象に、以下では観光空間に焦点を当てる
3-4. 他性という観光空間の特徴:ゴスによるハワイの他性の分析
3-5. 出会いという性質: イメージ、人、モノの出会うハイブリッド空間。ダンカンによるスリランカ・キャンディ高地を行く西洋人の心象地理研
3-6. ハイブリッドにおける文化的政治:ストリブラスとホワイトによる、中産階級的な象徴操作の研究
3-7. 観光空間と他の空間を関係論的に捉えること。時空間の圧縮に伴う他性イメージの創出
3-8. 観光空間におけるイメージと神話:
・神話;先立って存在する記号の連鎖を出発点として形成された、二次的な記号体系(バルト)
・観光空間にはわれわれを惹きつけるいくつかの場所神話が形成され、それはその空間のある一連の場所イメージ群によって形成される(シールズ)
3-9. 観光空間は境界域。境の場所神話を喚起する非日常的実践の空間。(cf. ターナー)
3-10. 境界性には日常性と非日常性が混ざっている。この両立が観光空間を成立させている。
3-11. ルフェーブルの均質化と差異化の同時に求められる空間の議論。余暇の空間は、日常と祝祭の分離を乗り越える、とりわけ矛盾に満ちた空間→観光空間に特徴的
3-12. 観光客はどのようにこの矛盾を受け入れるのか?立ち位置を移動させることによって(フェザーストン)
3-13. このような矛盾した空間はいかに生産されるのか?卓越する表象の空間を、空間の表象が均質化し
するため
3-14. こうした観光空間の特質は、アーリも取り入れていた
 
4. 文化/空間論の変容と観光研究
4-1. カルスタは構造主義の変奏である(カラー)→文化/空間論的転回の特徴のひとつ
4-2. 必然的諸関係としての「構造」と、偶有的諸関係としての「出来事」(アーリ)。フラヌールとテクストとしての都市全体(ハーヴェイ)→ハーヴェイは後者を優越化
4-3. 90年代後半~20世紀初頭:構造から出来事へ。物質論的転回。スリフトの非表象理論。記号的な認識論から出来事的な存在論
4-4.デリダドゥルーズへの関心。情動や感情への注目
4-5. 脱構築を超えたポスト・ヒューマニズムへ。ラトゥールとANT
4-6. 移動の問題の前景化。グローバル化は領域のメタファーではなく移動のメタファー(アーリ)
4-7. 『モビリティーズ』におけるハイブリッドへの着目。観光は、移動する人とモノのハイブリッド
4-8. こうした流れは観光研究へ合流
4-9. アーリ自身も立場を変化。『まなざし』第三版ではハイブリッドな行為としてまなざしを再定位、
 
5. おわりに――観光学の意義と可能性
5-1. 観光学にはいかなる意義や可能性があるのか?
5-2. 観光の重要性は「移動」を特徴とする現象である点。場所が動きによって生成されるように、観光学も知的動きの中に立ち現れる
5-3. 移動によって志向がもたらされる。そして観光も観光学も移動の中に成立する
5-4. 観光はあわいに成立する(日常/非日常)。あわいの関係性は、文化や空間の研究にとって重要な問題
5-5. 観光と観光学は、現在の人文社会科学にとって最先端の議論の場